田中進 2026.5.30
昭和22年9月26日から10月1日を描いた作品。初演から40年、22年ぶりの再演。井上ひさしさんの、敗戦直後の、銀座でのご経験がふんだんに盛り込まれていると思う。
冒頭、銀座ラッキーダンスホールで、歌う、妾の子、桃子。彼女は、オーディションを受けるために、必死だ。そこに、金太郎が入ってくる。このダンスホールを購入し、アメリカ人相手の土産物屋にするために。ダンスホールは、長女蘭子が、自分の宝石すべて売って購入し、渋谷から移ってきた。元男爵・月岡家4姉妹が住む。蘭子は、中国の上海飯店ダンスホールで、タンゴを踊っていた。お連れ合いが、戦死後に。次女藤子は、ダンスホールの経理で、お連れ合いは、戦時中、軍の特殊任務だったが、戦後になっても、どこにいるのかわからず、戻らない。三女梅子は、秀才肌。高校3年生で、同じ歳の桃子と同じ高校に通う。金太郎は、商売の才覚ある闇成金で、戦時中は、月岡家の運転手だったこともある。
こういう細かい人物設定は、井上ひさしさんらしい。この舞台の醍醐味だ。そして、敗戦2年後に、必死に生きようとしている庶民の姿が描き出されている。演出の栗山民也さんが言われるように、「明日をどう生きるか」の時代だ。ここに、ダンスホールのピアノ伴奏者、耳の聞こえない花売娘、郵便配達人、闇屋のおばさんが、脇を固める。
当時の流行歌とともに、花売娘が、藤子に花を渡すシーンは感動的だ。他にも、当時のさまざまな流行歌が挿入されていて、非常に素晴らしい。タンゴも、蘭子役の元宝塚の朝海ひかるが踊り、最高に良い。金太郎の高橋克実も、凄んだり、愛嬌があったり、昭和義賊によってまる裸になったり、の熱演。桃子役の大原櫻子も、挿入歌7曲を歌う。彼女は、「美空ひばりさんが大好きだ」と、アフタートークで話していた。他の役者さん達も、本当に熱演だった。この演目を上演・企画された、こまつ座・井上麻矢さんに、大変感謝している。
最後に一言。この舞台は、テンポがよく、歌あり、踊りありで、本当に楽しい。だが、うちに秘めた、奥の深いメッセージが、散りばめられている。例えば、金太郎が、「今までのことはみんな忘れて、再出発します」と言うのに対し、藤子は、「昭和20年2月16日を忘れず、再出発します」と。他にも、たくさんのメッセージが詰め込まれている。忘れてはいけないことを。
井上ひさしさんは言う。「われわれは現実というものを作り出すものとは考えず、作り出されたものとして考えてしまう癖がある。つまり現実は、いつも、どこからか起ってきたものと考えたがる。こういう考え方をしているかぎり、責任の所在は常に曖昧にな
る。戦争責任もしかりであり、この考え方は現在もなお、われわれの十八番である。そこであの大戦争を扱うことが、とりもなおさず現代を扱うことに通じる……」
今月31日まで、東京新宿・紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYAで上演。その後、山形、岩手、石川、大阪をまわる。ぜひ、ご覧下さい。
小西晴子 2026/5/4
下記、私が作成した、憲法学者樋口陽一氏の動画です。
2022年に制作しましたが、氏の言葉が予言のように現実になっている危機を
感じています。今こそ皆さまに、見て頂きたいと思っております。
*****************************************
「流されないこと~憲法学者が孫と語る個人の尊重と戦争」(15分)
https://youtu.be/P6SJncs4v_g?si=EOVxIDVBlGKAKUEt
制作:2022年ドキュメンタリーアイズ 小西晴子
【 動画内容 】
ロシアのウクライナ侵略、イランへのアメリカとイスラエルのイランへの侵略。
勇ましい軍備の強化への声が大きくなる中、私たちは今、岐路に立っている。
個人が尊重される社会であり続けられるかは、一人一人の選択にかかっていると、
憲法学者の樋口陽一は問いかける。
2015年、樋口は、安保法案改正反対の声をあげ、国会前デモに参加。
「安保法制の直接の問題は、日本国民が、特定外国のために
駒として使われる人的資源になること。」
樋口は、自らの体験と想いを、孫娘 葉野(ふさの)に話し始める。
太平洋戦が始まり、学校は軍隊そのものだったこと。
空襲で丸たんぼうのようになった死体を、憲兵隊がトラックに乗せ
人生がそこで終わってしまった多くの人がいたこと。
憲法が「個人の尊重は、国家が侵すことができない普遍的な権利」
と宣言しているのは、とても大切であること。
九条は、今も生きている。
「ベトナム戦争などにまきこまれる危険性を回避した。
自民党草案の、自衛隊(国防軍)を九条の二に書くと
後の条文が 優先され、 戦争放棄、戦力不保持が
無効になる場合もある」
今、憲法学者の樋口陽一(91)の心の叫びを、もう一度聞いてほしい、
「広島、長崎のことを考えるならば、アメリカさんの子分にはならない」
【 小西晴子 】
ドキュメンタリーアイズ代表。
太平洋戦争中、インドネシアに派遣された日本兵を父にもつ。樋口陽一氏の教え子
2014年、イラク戦争下での市民を描く映画「Peace on the Tigris」を製作。FIPA「Young jury award」
2015年、東日本大震災からの再生描く「赤浜ロックンロール」(文化庁後援)を監督。
2025年、「祖父への旅」(NHK BS/NHK World)で、インドネシア残留日本兵の3世代にわたる傷を描く。ギャラクシー賞奨励賞受賞。
ジョニーH 2026/4/13
日本キリスト教団 阿佐谷東教会
舞台演出家で音楽演奏をし童画を描く
マルチアーティストの
二瓶龍彦さん主催のアートムーブメント沈黙のハチドリ『湾岸CREATION』が開催された。
二瓶さんとの対談トークの中でユンカーマンさん(写真)は
「最近の嬉しかったニュースは、移民を排除するトランプ政策に対して、ミネアポリス中心に800万人の抗議デモがあったこと。米国の良心が戻ってきたという気持ちです」
トークの中での彼の提言
『怒りではなく希望の種を!』
『汝の敵を愛せ!』
『隣人の弱者を救え!』
を象徴する多文化を体現するイベントだった。
出演者
アシリア・ベイ・ローレル(ビデオメッセージ 日本語朗読門岡瞳)
小久保佳則(ターキッシュクラリネット)
劇団もっきりや(詩読み)
オータ・ナオ(ボディパーフォーマンス)
矢島夕佳里(ウード)
ジャン・ユンカーマン映画監督(トーク)
ゲルブ・ルシャット・アンサンブル(歌・瓢箪笛・チャランゴ他)
Akaciq(パーカッション)
ジョニーH 2026/4/13
4月11日(土)板橋区にある劇場サブテレニアンで『相馬クロニクル』上映会が行われた。
ゲストは相馬高校放送局顧問の渡部義弘さん。 上映作品は全て相馬高校生が制作したもので 『原発と学舎』 『震災トラウマ』 『福島の高校生がALPS処理水について考えた』 『原発と教育』 『春の若駒・福島から問う原発再稼働』
原発事故後。相馬市は避難困難区域と警戒区域の2つに分断された。 高校生や教員だけでなくジャーナリストや原発推進担当者にまで鋭い質問のインタビューをしている。
佐武玲子さんとのアフタートーク(写真)で観客の中に、事故のあった2011年に隣の会津市内の高校を卒業した若者がいて「映像を観てその頃から今までの相馬市の様子を初めて知った。同じ福島県出身者として、自分も取り組まなければと思いました」と語った。
渡部義弘さんによると『相馬クロニクル』 とは「福島県立相馬高校放送局の震災後制作の映像上映を目的とした任意団体で、2011年から高校生の視点で震災を伝える活動を続け、震災直後の『緊急時避難準備区域より』や多くのメディアで報道された『今伝えたいこと(仮)』をはじめ、その多くが女子高生の視点で語られている」
田中進 2026/4/8
映画『済州島四・三事件 ハラン』を観た。ハングルの題名は、『寒蘭』。ハラン=寒蘭は、晩秋から冬にかけての寒冷期に咲く東洋蘭の一種で、韓国では、主に、済州島に自生する。
済州島四・三事件。ご存知の方もいれば、そうでない方もいると思う。まずは、朝鮮民族統一という観点からこの映画を観ていただきたい。
6歳のヘセンが、飼っている黒豚に、さつまいもをあげるシーンから始まる。そして母・アジンが、娘・ヘセンとオモニを残して村を去り、漢拏山(ハルラサン)を登っていく。残してきたヘセンとオモニに悲劇が起こる。
アジンは、巫女(ムーダン)見習いと村人たちと一緒に漢拏山を登っていく。その後
も、悲劇ばかりだ。
エンディングの二つのシーンは印象的だ。ひとつは、政府軍のムン一等兵の行動。もう一つは、アジンとヘセンの二人のシーン。
ラストは、2025年の済州4・3行方不明者墓域の映像で終わる。
とにかくよく観ていただきたい。いろんな要素が盛り込まれているからである。
アジン役のキム・ヒャンギと、ヘセン役のミンチェは、本当に素晴らしかった。
脚本・監督のハ・ミョンミさんが挨拶で言っていたが、四・三事件についてはいろんな意見があるので、自分の考えを通すため、韓国映画振興委員会の助成金と、済州コンテンツ振興院からの支援で賄い、制作費の半分は監督の自腹とのことである。つまり、借金だ。制作費は、ざっと1億円である。
また、彼女は、2012年に済州島に渡り、隣りに住む老人たちと話をしてきた。そういうことも手伝って、映画は、かれら彼女らの目線から描こうと思ったそうだ。
監督のこだわりもすごい。映画では、当時、済州島で話されていた言葉を使っている。だから、韓国の上映でも、字幕をつけたと言う。
付け加えておくと、韓国は、第二次世界大戦後、軍事政権が続き、1988年に終わった。だから、四・三事件は、ずっとタブーだった。2012年に、四・三事件を描いた映画『チスル』が公開された。こちらも素晴らしかった。
★映画公式サイト⇒https://hallan-movie.com/
甲斐淳二 2026/2/19
予告編を何度か見て楽しみにしていた。日本漫画家協会・優秀賞を受賞した武田一義原作の同名漫画のアニメ化作品。史実を参考にしたフィクションだ。
“戦争”を題材にしたアニメは他にもあるが、“戦場”を舞台にしたものはこれが初めてだろう。戦闘シーンや兵士が負傷し血を流して死んでいくシーンをアニメで観るのは不思議な感覚だ。柔らかい映像で深刻な戦争を描く。実写とも、劇画とも違うアニメ独特の表現が観客の想像力を刺激する。
過酷な戦場での主人公・漫画家志望の田丸一等兵と、同期の吉敷との友情物語は観客を引き付ける。田丸は「功績係」という任務を命じられる。戦死者を英雄としてたたえ、功績を捏造する任務だ。戦争報道というのは捏造だというわけだ。おもわず鶴彬(つる・あきら)の川柳を思い出す。「屍のないニュース映画で勇ましい」
ペリリュー島とは、パラオ諸島の一つで激戦地だった。上陸米軍4万人。対する日本軍守備隊1万人のうち最後まで生き残ったのはわずか34人だった。
戦争が終わっているのを知らずに、米軍のゴミ捨て場から食料を漁り、捨てられた新聞・雑誌を見て、戦争が終わったのか、それとも罠なのかと悩む。これは井上ひさし原作で昨年夏に公開された映画「木の上の軍隊」でもほとんど同じような場面が描かれていた。
戦争は終わったのか?真相を知りたい、確かめるために米軍に投降を考える吉敷、それを許さない上官との葛藤が後半の山になる。
平日の午後の上映だが、客席は大入りだった。日頃、高齢者の多いこの名画座に若い女性達の姿もあった。この映画は客層を広げる力があるようだ。
レビュー(感想)を読むと、若い人たちの戦争批判の投稿が多い。巨大政権が誕生し、ますます大軍拡が進みそうな時代だけに、「戦後80年記念作品」と銘打ったこの作品の価値があるようだ。
エンドロールでは上白石萌音の歌声が、画面には「今も2400人の遺骨が残されている」というテロップが流れる。それが終わると、客席から拍手が起きた。(キネマ旬報シアターにて鑑賞)
★映画公式サイト⇒ https://peleliu-movie.jp/
田中進 2026/2/18
壮大な屋久島の自然と、神戸の臓器移植医療センター。この2つを結びつけるのは、パリから来た女医コリー。
彼女は、2023年夏、屋久島を訪れる。その森の中で、迅と、バッタリ出会って意気投合する。かれは、英語と、片言の仏語で、彼女と会話を始める。
しばらくして、かれが、突然、神戸の彼女の部屋を訪れ、二人の同棲生活が始まる。しかし、1年位経過した頃、かれの誕生日に、突然、かれが、彼女のもとを去る。
その直前の二人の会話で、かれが、彼女に言い放った言葉 "Word can lie"。彼女は、かれが去った後、この言葉の意味に気づく。
この恋愛と同時並行で、彼女の医療センターでの仕事の模様が描き出される。
彼女は、子供の臓器移植を日本で勧めようとする。彼女は、スペインで、臓器移植を学んだ。ドナー大国スペインとは違い、日本では、なかなかうまくいかない。病院の医師たちの理解もあるが、一人の医師を除いて、彼女についていけなく、皆、疲れて果ててしまう。
この映画では、ドナー大国スペインとは違った、日本での臓器移植のあり方も問題提起している。
面白かったのは、彼女が、ビデオカメラを、いろんな人に、まわしていたこと。患者を含めて。こんなシーンは、やっぱり、映画監督の河瀬さんだなと思った。
私は、映画公開初日の挨拶に参加した。子役の2人の挨拶は、大人顔負けだった。映画を観ると、2人は、患者役で出演していたが、やはり、抜群の演技だった。
また、河瀬監督は、彼女の映画作品を最初から観ている恩師から、「この映画は、あなたの最高傑作です」と言われたという。
全国上映中。ご覧下さい。
